国立西洋美術館:ル・コルビュジエが上野に残した建築思想
国立西洋美術館は、20世紀を代表する建築家ル・コルビュジエが設計した、日本で唯一の作品です。
2016年にはユネスコ世界文化遺産にも登録されており、建築史において非常に重要な位置を占めています。
モデュロールがつないだ師弟の設計
1955年11月、ル・コルビュジエは8日間来日し、上野の建設予定地を弟子たちとともに視察しました。
これが彼にとって最初で最後の訪日でした。翌1956年に基本設計書がフランスから届き、1957年には実施設計図が送られてきましたが、その図面には1枚を除いてほとんど寸法が記載されていませんでした。
それでも設計を進められたのは、ル・コルビュジエが考案した「モデュロール」があったからです。
モデュロールとは、身長183cmの人体寸法と黄金比を組み合わせた独自の基準寸法体系で、「モデュール(寸法)」と「section d’or(黄金比)」を合わせた造語です。
弟子たちはこのモデュロールを用いて図面の縮尺から寸法を読み取り、柱の間隔、天井の高さ、外壁や床のパネルに至るまで、すべてを緻密に設計しました。
まさにモデュロールが、師とその弟子をつなぐ共通言語の役割を果たしたのです。実施設計・監理を担ったのは、ル・コルビュジエの3人の日本人弟子、前川國男・坂倉準三・吉阪隆正でした。
近代建築の五原則
ル・コルビュジエは「ピロティ、屋上庭園、自由な平面、水平連続窓、自由な立面」という近代建築の五原則を提唱しており、その完成形とされるのがフランスのサヴォア邸(1931年)です。
国立西洋美術館はこのうち水平連続窓を除く4つを採り入れています。
美術館では収蔵作品を光から守る必要があるため、水平に連続した窓を設けることが難しく、この原則だけは意図的に見送られました。五原則のうち4つが体験できる建築としても、たいへん貴重な存在です。
無限成長美術館という思想
この建築のもうひとつの核心が「無限成長美術館」という構想です。
コレクションの増加に合わせて、建物を四角い螺旋状に外側へと増築し続けることで、半永久的に拡張可能な美術館を実現しようというものです。
この構想に基づいて実際に設計された美術館は、インドのサンスカル・ケンドラ美術館、チャンディーガル政府博物館・美術館、そして上野のこの3館のみとされています。
しかし、現実には構想通りには進みませんでした。
1979年に前川國男が設計した新館は、本館の渦巻きとは逆向きの配置となり、1997年には前庭の地下に企画展示館が増設されました。
上野という立地で敷地を外へ広げていくことは現実的に難しく、無限成長の夢は実現しないまま今日に至っています。
前庭と「19世紀ホール」という吹き抜けの空間までは無料で入ることができます。
モデュロールで設計された空間をぜひ全身で体験してみてください。